堕天使のデトックスノート

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エホバの証人の輸血拒否の教理への反論⑧「母乳⑵」


「母乳⑴」の記事では、血液に関する話が中心となりました。

ポイントは…

1. エホバの証人が血液分画の輸血を受け入れる理由は、異なる2人の人間間を血液分画が行き来しているということである

2. 白血球はいくつかの種類の細胞に分けられる

の2点でした。

では次に、母乳について見ていきましょう。


【母乳はどのように作られるか】

ご存知のように、人間から出るあらゆる液体(汗、涙、尿、唾液など)はすべて血液から作られます。もちろん母乳も血液から作られます。

女性が妊娠して赤ちゃんを産む直前になると、ホルモンの働きにより乳房内で母乳を作る準備が始まります。乳房内にはブドウの房のような形の「乳腺葉(にゅうせんよう)」があります。母乳生産工場のようなものです。

この乳腺葉を構成するブドウの粒にあたる「腺房(せんぼう)」の周りに動脈が走っています。工場の中にある生産用の機械が「腺房」、機械に原料を運んでくるベルトコンベアーのようなものが「動脈」と考えればわかりやすいかと思います。

動脈から供給される原料となる血液が、腺房という機械で加工されると母乳が作られるというわけです。作られた母乳は「乳管」を通して外に運ばれ、赤ちゃんが飲むことができるようになります。

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【母乳の成分】

このように、母乳は血液から作られるため、その成分は血液と非常によく似ています。しかし今回はそれら母乳の成分について事細かに語るのが目的ではありません。母乳の成分のうち、免疫に関わる成分、とくに細胞成分を見ていきたいと思います。

お母さんが赤ちゃんを産んでから最初の3日から5日くらいまでは、粘り気が強い「初乳」と呼ばれるタンパク質やミネラルが豊富な母乳が出てきます。この初乳にはとくに免疫成分が多く含まれており、白血球細胞は1mLあたり10万~100万個含まれています。

そして産後1週間くらい経つとさらさらな「成乳」と呼ばれるエネルギーや脂肪が多い母乳が出てくるようになります。このころになると徐々に免疫成分は少なくなっていき、白血球細胞は1mLあたり1万個ほどになります。

これを、血液中の白血球の基準値と比較してみると以下のようになります。母乳中の白血球数は1mLあたりなのでこれを1μLに換算しています(1mL=1000μL)。

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成乳ともなると微量と言えますが、初乳ではかなりの数の白血球細胞が含まれており、決して無視できる数ではないことがお分かりいただけるのではないでしょうか。

さらに以下の表もご覧ください。とくに母乳中の免疫に関わる細胞成分に注目していただきたいです。 f:id:BistroSan415:20161219214152j:plain

母乳に含まれる白血球は、好中球、マクロファージ、リンパ球がほとんどであることがわかります。

では、血液中の白血球の中で、大部分を占める白血球の種類は何だったでしょうか。

昨日の記事に添付した表「白血球の成分」をご覧いただければ容易に分かると思います。そう、好中球、マクロファージ、リンパ球です。つまり母乳中の白血球の成分は、血液のそれとほとんど変わらないということになります。

以上の点をまとめると、

① 母乳には無視できない数の白血球細胞が含まれている

② 母乳に含まれる白血球の成分は血液中の白血球とほとんど変わらない

と結論することができると思います。


エホバの証人が母乳を容認していることの意味】

この医学的な事実は、エホバの証人にとってどのような意味があるのでしょうか。

エホバの証人は血液分画の輸血を許容するための根拠として、異なる2人の人間間を血液分画が行き来しているという医学的事実を挙げています。

では、母乳に関してはどうでしょう。お母さんから赤ちゃん(別々に存在する異なる2人の人間)へ、白血球という血液の主要成分が、しかも食べ物として口から取り入れられています。

エホバの証人は「血を避けなさい」という聖書の言葉を文字通り解釈し、食べ物として口から取り入れることはもちろん、輸血として血管内に取り入れることはできないと教えています。

彼らの解釈からすれば、口から血球成分を取り入れることになる母乳栄養は聖書に反するということになります。

しかしエホバの証人に関係する方であれば誰しも、エホバの証人のお母さんが赤ちゃんに母乳を与えていることを知っていますし、組織から母乳を摂取することを禁じられているわけではないことも知っています。いえむしろ、聖書中に母乳を与える記述があることから、エホバの証人は母乳栄養に関して非常に好意的な文章をいくつも残しています。
エホバの証人の「索引」の「母乳で育てる」という項目参照)

なぜでしょうか。なぜ白血球を多く含む母乳は容認されているのに、成分輸血は拒否しなければならないのでしょう。この点に関し、エホバの証人は明確な答えを提供していません。

しかし理性的な方なら誰しも、エホバの証人が血液分画を受け入れる医学的根拠を前提にして考えれば、エホバの証人は血液の主要成分を受け入れても良いことになると結論することでしょう。


【引用・参考文献】
① 「新生児学入門」第4版 仁志田 博司 医学書院 2012 P182~184
②「よくわかる母乳育児」改訂第2版 水野 克己 2012 P68~79
③「病気がみえる 産科」第3版 メディックメディア 2013 P364~366
④「母乳の免疫機能-抗体とミルクムチンによるロタウイルス感染の予防」 金丸 義敬 化学と生物Vol.35、No.2 1997 P111