堕天使のデトックスノート

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エホバの証人の輸血拒否の教理への反論③「輸血の代替医療」


エホバの証人が輸血拒否に関して論じるとき、必ずと言っていいほど次の2つの医療的な理由を強調します。

① 輸血の合併症というリスク
② 輸血の代替医療の存在

このうち①がいかに根拠のない主張であるかを以前の記事で触れました。

では②についてはどうでしょうか。

まず確認しておきたいのは、医療上の処置には必ずメリットとデメリットが存在するということです。必ずです。
どんなに良い薬でも、どんなに腕のいい医者の手術でも、どんなに高度な医療機器でも、必ずデメリットが存在します。リスクのないメリットのみの医療処置など、この世の中には存在しません。
そのため医師は、患者にとってメリットがデメリットを上回る医療処置を選択し、メリットと共にデメリットも患者に示してそれを受け入れるかを確認(いわゆるインフォームド・コンセント)して、医療を提供します。

※ 余談ですが、輸血拒否に関するエホバの証人の主張を聞くときに注意しなければならない点があります。彼らは、輸血についてはリスクのみを取り上げ、無輸血手術や代替医療についてはリスクに触れずメリットのみ取り上げるからです。冷静な方ならば、エホバの証人の主張が正当であることを示すための、非常に偏った論議であることにすぐに気づくと思います。

エホバの証人は輸血の「代替医療」についてDVDを作成するなど、かなり研究熱心です。
そして彼らはいくつかの医療処置を「代替医療」と呼び、輸血に代わるものとなると主張します。
しかし彼らの取り上げるいくつかの医療処置は、本当に輸血に代わるほどの医療なのでしょうか。
彼らのいう「代替医療」にはデメリットとなるものは存在しないのでしょうか。

エホバの証人が「代替医療」としてよく取り上げる3つの医療処置のメリット・デメリットをそれぞれ見てみましょう。

 

代替医療」とそのメリット・デメリット

① 血液希釈法
全身麻酔をかけた後に一定量の血液を採血して保存しておき、患者に輸液をおこなって体内の血液を薄める方法です。

メリット
・ 緊急手術にも対応する
・ 新鮮な血液を使用できる
・ 術中の出血量がみかけよりも少ない

デメリット
・ 採血できる血液量に限界がある(約1L)
・ 循環動態が変化しやすくなる
・ 手術時間が長くなる
※手術時間が長くなると手術に伴う合併症(肺水腫、無気肺、肺炎、下肢静脈血栓症など)のリスクが高くなります。


② 血液回収法
手術野から出血した血液を回収して患者の体内に戻す方法です。手術中の出血を吸引によって回収し、遠心分離器で必要のないものを除いて赤血球だけを戻す術中回収法と、手術後に出血した血液をそのままフィルタ-を通して戻す術後回収法があります。

メリット
・ 大量に出血する手術、出血量が予測できない手術、術後だけに出血する手術では有効である

デメリット
・ 溶血(赤血球が壊れる)の可能性がある
・ がん手術では使用できない
・ 血液に細菌・脂肪が混じる危険がある
※ 細菌が血管内にはいると敗血症を起こす危険があります。脂肪は血管を塞ぐので、脳梗塞や肺塞栓、心筋梗塞などの危険があります。


エリスロポエチン
腎臓で産生されるホルモンで、赤血球の元になる細胞に働きかけて赤血球への分化・成熟を促進します。腎不全による貧血にきわめて有効なほか、外科手術のさいにも自己血輸血のために利用されます。

メリット
上述の通り

デメリット
・ 脳梗塞心筋梗塞などの既往があると使えない
・ 血圧が上昇しやすい
※ 高血圧の患者には慎重に投与する必要がある


いかがでしょうか?

エホバの証人が輸血に代わるとするどの医療処置にも、メリットと共にデメリットがあること、すべての外科手術に有効ではないこと、重篤な副作用が起こりうることをお分かりいただけたのではないでしょうか?

エホバの証人の「代替医療」についてのDVDをみると、いかにも輸血などなくてもあらゆる医療が受けられるような印象を持ちます。
しかし実際には限定された医療処置であり、輸血にとって代わることができるほど万能ではないですし、メリットばかりでもないのです。
むしろ現在の医療では輸血がないと命を落としてしまう疾患がいくつも存在します。エホバの証人の輸血に関する文献には、それらの疾患について触れる記述は一切ありません。

もちろん輸血にもメリットはありますし、デメリットもあります。
医療は決して万能ではありません。
しかし医師や看護師などの医療職は、そうした限界の中でもできうる限り、メリットがデメリットを上回る仕方で医療を提供できるよう、患者のために最善を尽くしています。

エホバの証人が無輸血治療を熱心に勧めるのは構いませんが、ぜひとも正確で偏りのない情報を信者に提供していただきたいものです。
そして輸血を必要以上に貶めることは絶対にやめていただきたい。
その治療のおかげで助かっている命が何万何十万とあるのですから。

 

 

参考文献
・ 日本自己血輸血学会「自己血輸血とは」
・ 系統看護学講座 臨床外科看護総論 医学書院 P115「自己血輸血」
・ イーファーマ「エスポー注射液1500シリンジ 添付文書情報」
http://www.e-pharma.jp/allHtml/3999/3999412G2029.htm (2014年11月12日)
・ 系統看護学講座 薬理学 医学書院 P214「エリスロポチン」